直江兼続「信義ある智将」に残る謎
昨年、「篤姫」が大ヒットしたNHK大河ドラマ。今年は上杉景勝の執政、直江兼続を描いた「天地人」で、4月末までの平均視聴率は22・4%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と、25%前後で推移した開始当初ほどの勢いはないものの、まずまず。ただ天地人まで、兼続を知る人がどれだけいたか...。関ケ原の戦いで西軍にくみした"負け組"。名だたる武将が歴史にひしめく中、なぜ今、兼続なのか。(文化部 草下健夫)
「私利私欲ではなく、品格や信義を大切に生きた人。彼を書かずして死ねない」。原作者の作家、火坂(ひさか)雅志さんは、兼続の優れた人格を語る。
直江兼続(1560~1619年)は、越後国上田庄(新潟県南魚沼市)生まれとされる。謙信死後の後継争い「御館(おたて)の乱」で上杉景勝の勝利を助けた後、与板城(新潟県長岡市)の直江家を継いだ。石田三成を支援し、関ケ原の戦いで敗れた。
注目されるのが、敗戦後、上杉家が会津120万石から米沢30万石に封じ込められても、兼続が家臣をクビにせず、厚い信頼を得ていたこと。理由は諸説あるが、経済危機で雇用が深刻化する昨今の世相に、教訓を残していると見ることもできる。また、敗戦後には一転して徳川家と融和し、大坂の陣で活躍して信頼を得るなど、米沢藩の安定に尽くしている。
火坂さんは執筆のきっかけを「中学時代、野球部の練習中のこと」と明かす。腕立て伏せの最中に頭から帽子が落ち、ツバの裏に書いていた「愛」の文字を監督に見つかりしかられ、腑(ふ)に落ちなかったという。
学生になった火坂さんは、兼続が使ったとされる「愛」の文字をかたどった前立(まえたて)(兜(かぶと)の前面につける印)の存在を知り仰天。野球帽のことを思いだし、「この人物を書くのが天命と思った」。
とはいえ、ドラマの演出と史実とは、やはり峻別(しゅんべつ)も必要。米沢市上杉博物館の主任学芸員、角屋(すみや)由美子さんは「米沢ゆかりの人物がドラマになりうれしい」としながらも、「兼続に関する史料は少なく、人物像も含め未解明の点が多い」と指摘する。
「例えば、前立の『愛』が兼続の志を表したというのは創作で、軍神(いくさがみ)である愛宕(あたご)権現(ごんげん)や愛染(あいぜん)明王(みょうおう)を意味するとの理解が大勢。あの前立を本当に兼続が使ったかどうかさえ、定かではない」と話す。
「兼続に関する史料が少ないこと自体が興味深い。直江家の存在を消すような動きがあったのでは」と、研究課題を挙げる。専門家にとっては、ミステリアスな魅力があるようだ。
火坂さんは、耐震強度や食品の偽装が発覚した現代を憂い「能力以上の表示やウソ、行き過ぎた利益追求が問題になる時代にこそ、信義の人、兼続を知ってほしい」と説いている。
◇
■知名度低い/敗軍の将 大河ドラマでは異色
NHKの大河ドラマは、映画に対抗できる大型作品をと企画され、昭和38年、井伊直弼を描いた「花の生涯」でスタートしている。
歴代作品中、期間平均視聴率が30%を超えたのは、「独眼竜政宗」(昭和62年)の39・7%を筆頭に「武田信玄」「春日局」「赤穂浪士」「おんな太閤記」「太閤記」「徳川家康」「秀吉」の順で8作品(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。天下取りに邁進(まいしん)し、強さを誇る戦国武将の姿が目立つ。
対して48作目「天地人」は、人気武将の謙信ではなく、その後継者、景勝の執政。これまで知名度は低く、しかも関ケ原で負けた異色のヒーローだ。
NHKの内藤愼介チーフ・プロデューサーは「兼続は1億円の仕事があっても、100万円の仕事を取るような人。手段を選ばず勝っていく『天下人』ではなく、生き方を大切にする『天地人』」と、仁愛あふれる姿を思い描く。
「誠実に生きれば人は裏切らない、という性善説に立つ作品は、今までの大河にはなかったのでは」とも。
5月10日の放送では、本能寺の変で信長が死ぬという、大きな山場を迎える。かつての敗軍の将は、視聴率でどこまで勢力を伸ばすのだろう。
直江兼続(1560~1619年)は、越後国上田庄(新潟県南魚沼市)生まれとされる。謙信死後の後継争い「御館(おたて)の乱」で上杉景勝の勝利を助けた後、与板城(新潟県長岡市)の直江家を継いだ。石田三成を支援し、関ケ原の戦いで敗れた。
注目されるのが、敗戦後、上杉家が会津120万石から米沢30万石に封じ込められても、兼続が家臣をクビにせず、厚い信頼を得ていたこと。理由は諸説あるが、経済危機で雇用が深刻化する昨今の世相に、教訓を残していると見ることもできる。また、敗戦後には一転して徳川家と融和し、大坂の陣で活躍して信頼を得るなど、米沢藩の安定に尽くしている。
火坂さんは執筆のきっかけを「中学時代、野球部の練習中のこと」と明かす。腕立て伏せの最中に頭から帽子が落ち、ツバの裏に書いていた「愛」の文字を監督に見つかりしかられ、腑(ふ)に落ちなかったという。
学生になった火坂さんは、兼続が使ったとされる「愛」の文字をかたどった前立(まえたて)(兜(かぶと)の前面につける印)の存在を知り仰天。野球帽のことを思いだし、「この人物を書くのが天命と思った」。
とはいえ、ドラマの演出と史実とは、やはり峻別(しゅんべつ)も必要。米沢市上杉博物館の主任学芸員、角屋(すみや)由美子さんは「米沢ゆかりの人物がドラマになりうれしい」としながらも、「兼続に関する史料は少なく、人物像も含め未解明の点が多い」と指摘する。
「例えば、前立の『愛』が兼続の志を表したというのは創作で、軍神(いくさがみ)である愛宕(あたご)権現(ごんげん)や愛染(あいぜん)明王(みょうおう)を意味するとの理解が大勢。あの前立を本当に兼続が使ったかどうかさえ、定かではない」と話す。
「兼続に関する史料が少ないこと自体が興味深い。直江家の存在を消すような動きがあったのでは」と、研究課題を挙げる。専門家にとっては、ミステリアスな魅力があるようだ。
火坂さんは、耐震強度や食品の偽装が発覚した現代を憂い「能力以上の表示やウソ、行き過ぎた利益追求が問題になる時代にこそ、信義の人、兼続を知ってほしい」と説いている。
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■知名度低い/敗軍の将 大河ドラマでは異色
NHKの大河ドラマは、映画に対抗できる大型作品をと企画され、昭和38年、井伊直弼を描いた「花の生涯」でスタートしている。
歴代作品中、期間平均視聴率が30%を超えたのは、「独眼竜政宗」(昭和62年)の39・7%を筆頭に「武田信玄」「春日局」「赤穂浪士」「おんな太閤記」「太閤記」「徳川家康」「秀吉」の順で8作品(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。天下取りに邁進(まいしん)し、強さを誇る戦国武将の姿が目立つ。
対して48作目「天地人」は、人気武将の謙信ではなく、その後継者、景勝の執政。これまで知名度は低く、しかも関ケ原で負けた異色のヒーローだ。
NHKの内藤愼介チーフ・プロデューサーは「兼続は1億円の仕事があっても、100万円の仕事を取るような人。手段を選ばず勝っていく『天下人』ではなく、生き方を大切にする『天地人』」と、仁愛あふれる姿を思い描く。
「誠実に生きれば人は裏切らない、という性善説に立つ作品は、今までの大河にはなかったのでは」とも。
5月10日の放送では、本能寺の変で信長が死ぬという、大きな山場を迎える。かつての敗軍の将は、視聴率でどこまで勢力を伸ばすのだろう。
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